遊歩のオケイジョンを創造してくれる。
<愛用モデル>
12010102 ボールグリップ黒 - Men
医療や介助、登山などの実用面はもちろん重要であるが、幸いまだ足腰が丈夫なぼくにとってステッキは不用の用、つまり、なくても困らないが、あれば心に余裕が生まれるような存在である。忙しくバタバタと目的地に急ぐようなときは絶対に持ち歩かない。仕事を終え、さあちょっとお洒落をしてコーヒーでも飲みにいきましょうか、散歩でもしましょうか、紅燈の巷にでもいきましょうかという遊歩の時間にこそふさわしい。またそういう心持ちに誘う一件である。
日本も含め世界的にステッキは実用化・汎用化が甚だしく、グリップの形などみな同じでタイクツ極まりない。その一方、英国などには昔からの伝統的意匠のステッキもあって、それはそれでガンコでよろしいのだが、いまの時代の美意識とかけ離れていることは否めない。吉田さんの手になる一連のステッキ世界では、20世紀前半カントリーやフォーマル・オケイジョンで紳士たちに愛用された欧米のさまざまなステッキの意匠は解体され、彼の真骨頂ともいえるアールデコ風味の都会的モダンデザインとして再構築されている。したがって、うれしいことに、伝統的な服とも、いまの先端的な服とも絶妙なる相性を示すのだ。素材もカーボンやジェラルミンなど、普及品にはないユニークさと贅沢さがあり、部屋にポンとおいて絵になる“工芸品”としても素晴らしい仕上がりをみせている。
【プロフィール】 はやし・しんろう
『MEN'S CLUB』や『Gentry』など数々のファッション誌の編集長を歴任したのち、服飾評論家として独立。